野村先生へのインタビュー ー あなたの興味が作る道
2025.07.28 融合学域 スマート創成科学類 全ての方向け
今回は野村章洋先生(スマート創成科学類 [以下略 スマ創] 教員)へインタビューのご協力をいただいた。先生は遺伝性循環器疾患を主たる専門分野として循環器内科医師のキャリアを築きながら、デジタル医療という新たな分野に挑む先生だ。また、異分野融合にも積極的で本学の先端観光科学研究所における観光科学と医学を融合した最先端のウェルネス観光についても研究している。今回は研究への姿勢、人間とAIの共存に加え、先生が考えていきたいヘルスケアと異分野の融合について語ってもらった。
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《今回のラインナップ》
1.デジタルの世界と過ごした学生時代
2.学生が身に着けていきたい課題解決能
3.情報のストックとこれからのAI
1.デジタルの世界と過ごした学生時代
皆さんは“デジタルセラピューティクス(DTx)”や“デジタル医療”という言葉を聞いたことがあるだろうか。これらは、IT技術やデジタル技術を医療分野に応用し、医療の効率化や質の向上を目指す取り組みのことである。この分野に挑み始めた背景には幼少期からコンピュータに触れてきた原体験があった。コンピュータの黎明期に生まれ育ち、10才ごろには両親からもらったパソコンに触れ始める。そこからパソコン、携帯電話、スマホそして(生成)AIとデジタル転換の時代を4度も目の当たりにした。そんな中、医療の道に進むと、大学院時代に遺伝子統計学に出会う。提出した論文は1人の体につき約30億ある塩基対¹から遺伝情報を統計的に解析、患者の遺伝性疾患の発見に貢献するものだった。先生は”幼少期から好きだったコンピュータの知識と医療の知識が自然と融合し、医師としての将来像が見えた時だった。”と語る。現在は好きだったデジタルの世界を応用し、医療を拡張させたヘルスケア²分野で多くの人があたりまえに健康を享受できる社会に貢献したいと考えている。
2.学生が身に着けていきたい課題解決能力
先生はスマ創2年次対象の「スマート創成科学とバイオロジー」という授業を開講している。実はこの授業は全て英語であり、多くの受講生は専門知識を持っていない中、遺伝子治療に関するグループプレゼンが求められる。しかし、この授業には単に遺伝子工学や英語のプレゼン法を学ぶ以上の意義がある。それは“デザイン思考³”と“バックキャスティング⁴”の力を養うことだ。実際の授業では、英語が母国語でないオーディエンス(他の学生)の理解力を想定し、知識が希薄な状態から最低限の知識を持つためのバックキャストをした。先生は次のように語る。
“本当に解決をしなければならない社会課題は、解くべき答えそのものが未知であり、課題の設定以上に解くべき答えを自分なりに考えて決定する経験を積むことが重要である。だからこそ、知らないことを知るためのPath(道筋)を見つける力を学生に身につけるとともに、ゴールのない課題に対し、ゴールを自分なりに設定していくことこそが、本当の課題解決能力になると思う。”
《先生からのアドバイス》安宅和人さんの「イシューからはじめよ[改訂版]」が参考になる!
3.情報のストックとこれからのAI
先生は異分野融合の研究にも積極的だ。例えば、先導学類の河内先生との共同研究では、社会貢献によって得られる幸福感を脳波で可視化するというユニークな試みも行われた。“医療に直接関連がなくても、医療につながるかもしれない情報をストックしておくことが、私の中ではとても重要だ。”と先生は語る。また、先生は得た情報のストックを可視化するために日々行っていることがある。それは、AIを知識の整理や思考の補助として活用することだ。例えば、Notion や Obsidian といったツールにAIを組み合わせて使うことで、アイデアの蓄積や関連づけが容易になり、思考の幅が広がる。こうした使い方は、ドイツの社会学者ニクラス・ルーマンが提唱した「ツェッテルカステン(Zettelkasten)⁵」にも通じている。実際、先生もヘルスケアを専門の核として観光、経済学、心理学などストックしておいた情報と結びつけ、先生にしかない知のネットワークを築いてきた。私たち学生も先生に習いながら自分の専門性を築いていきたいものだ。
自分だけの知のネットワークをAIと共に築いていくことで、
自分の専門の枠を拡げ、新たな研究領域が派生する
(今回の用語)
塩基対¹ ーデオキシリボ核酸の2本のポリヌクレオチド分子が、アデニン (A) とチミン (T)(もしくはウラシル(U))、グアニン (G) とシトシン (C) という決まった組を作り、水素結合で繋がったもの。
ヘルスケア² ー健康の維持や増進、病気や心身の不調の予防のための活動や取り組みのことです。医療、介護、福祉、健康食品、フィットネスクラブなど、幅広い分野が含まれる
デザイン思考³ ー他者の視線に立ち、相手のニーズや考えに気づく力
バックキャスティン⁴ ーまず理想的なゴールを設定し、そこから必要な要素を逆算的に選び、吸収していくこと
ツェッテルカステ⁵ ー思いついたアイデアをその都度短く記録し、後にそれらをつなぎ合わせて自分だけの知のネットワークを形成していく思考法